というのも、即戦力候補の僕は普通の新人アシスタントとして使うわけにはいかず、そろそろメインディレクターとして一つの案件に入らなきゃならないのですが、なかなか受注が決まらないのですね。次が決まったら確実に僕が担当になるのでドキドキです。
で、今は何をやっているかというと先輩や上司にくっついて新規案件の営業にまわってます。といっても、ウチの会社は一般的にいう営業はしないので、会社回りをしてご挨拶・・・なんてことをやっているわけではないです。まずクライアントからウチに問い合わせがあり、そこで先方の与件や予算感の確認、合わせてウチのやり方をプレゼンして理解してもらう場なのです。つまり、営業というよりはその次の契約内容検討に近いですね。
ここ二週間ほど、これでもかというほどその新規案件打ち合わせの場に同席させられます。たぶん、受注したら僕が担当するので、あらかじめクライアントの状況を把握しておけということなんでしょう。
今日も新たなクライアント企業の担当と会いました。先輩が打ち合わせ後にそう漏らしたように、手応えはなかったです。渋い顔をしてましたから。何がクライアントを悩ませるかって、値段。ウチのWebに関する考え方やプロジェクトの進め方、その手腕に疑問を抱く方はほとんどいません。成果を約束しますし、実績もある。その辺では確実に他を圧倒している。でも、その分値段も半端なく高い。
「こんな金額、普通の会社には出せないよなぁ」
先輩はそう言いました。
出せないですよ。年間の利益ですら、そこまで達成できていないような、そんな金額ですから。ましてや手にとって触ることの出来ないWebにポンと大金を出して、社内でリニューアルに向けて大量の人材を割けるなんていう企業の方が珍しい。
あちらもビジネスとして来ていますから、値段を聞いて「うわー!高いなあ!」なんて、オバハンみたいなことは言えない。笑顔を崩さず、苦笑いをしながら申し訳なさそうに「そうですよねえ〜、それぐらいかかりますよね〜、ははっ」なんて辛そうな返事をする。そんな時、僕はやっぱり、自分の追い求めるものとは違うなぁと思います。
彼等が辛いのは、この結果を社に戻って報告しなければならない。愕然とするような金額に諦めの境地でしょうね。そしてもっと辛いのは、妥協以外に他に打開策がなくなること。Webサイトが機能せず、社内に問題を抱えなんとかそれを打破したい、解決して欲しいと我社の門を叩くクライアントは、前述の通りウチのやり方に非常に共感し、「ここなら何とかしてくれるかもしれない」と、自らのビジネス、企業としての展望を熱く語り出す。そしてビジネスとしての発展、Webでの成功に夢を抱くのです。しかし、その夢はお金という現実にあっさり打ち砕かれる。その時のクライアント担当者の表情は、ビジネスマンとしての体裁を崩せず、平静を装う中にも苦しそうな、せつないものです。
そしてウチを諦めた所で、ウチの様にWebをビジネスのツールとして捉え、あくまでビジネスコンサルが行えるWeb屋は皆無に等しい。小さな制作会社なら存在するかもしれませんが、そこには実績も、なにより体力もない。大手ではもちろん聞いたことないし、他に無いからウチがバイネームで仕事ができるのです。ウチを諦めたクライアント企業はその後どうするんだろう。たぶん、妥協しかないと思うのです。
恋人や親を喜ばせたくて、有名なレストランを訪ねて見たら、とてもじゃないけど出せるような金額じゃなかった。なんてところでしょうか。
僕は、やっぱりそういう人にも、むしろもっともっと小さな会社にもWebを提供したいなぁと思うのです。でもね、だからといって今まで自分がやってきたような、数多ある制作会社がやっているような動く絵や誰が見ても使いやすいなんていう通り一辺倒な、役に立たないサイトは作りたくないのです。肉屋なら肉が売れる、喫茶店ならお客さんが増える、そんなサイトであって欲しい。
大きな大きな矛盾がそこには存在する。我社は、何もクライアントから金をむしり取るためにWeb屋をやっているわけではない。良いサイト、機能するサイトを作ろうと思ったらそれだけ金がかかるということなんです。実際、金額に見合う労力を費やしていますから。
機能するサイトを作るたむには、しっかりとした戦略を立てなきゃならない。しっかりとした戦略を立てるには、問題点を確実に把握しなければならない。問題点を的確に捉えるためには、綿密な調査をしなければならない。そら、時間も労力もかかる。
成果を約束する。
クライアントと対等以上に渡り合う。
そして、名前で仕事が来る。
凄いことですこれは。
でも、お金のない人にそれを提供するのはもっと難しい。
そんな矛盾にいま、ぶつかってます。
どうしたらいいのかわからん。
たぶん、現実はどこかでクオリティを落とすしかないんですけどね。
そうすると、どこで金額とクオリティの折り合いをつけるのか。
難しい問題です。