いま、ネットでほんの少しだけ話題の的になっているのが、週間マガジンにて連載中の「エリアの騎士」での1プレー。これがオフサイドであるかないかという話。ちょっとこれじゃ説明が足りないかな。漫画の中でも敵から「それオフサイドだろ!」という物言いがついているが、漫画の中では何かしらのトリックプレーによって「オフサイドではない」ということになり、正式にゴールが認められてしまっているということ。で、そのまま次週へ。
■問題のプレー
主人公:駆が完璧なオフサイドポジション(PA内と思う)に走りぬけ、そこに味方選手が中盤からロングパスを蹴り込む(縦方向)。そのまま、ボールはスペースへまるでそのボールを受けるかのごとく走りこむ。ボールは駆の横でワンバウンドしてそのままゴールへ。駆はオフサイドポジションにいたが、ボールには触れておらずオフサイド判定は無効となりゴールが認められた。
で、サッカー知識のある方の意見としては大抵の人は「これオフサイドだろ!駆がボールに触っていないから"パスではない"っていうことなんだろうけど、プレーに関与している時点でオフサイドだ!」っていう論調。僕も実はそう思っていました。
その選手がオフサイドポジションにいて、たとえボールに触れなくてもそのボールに向かって走ったりする等"プレーに積極的に関与している"という行為が行われていた場合はオフサイドなのです。だから、パスの貰い手がオフサイドポジションにいて、オフサイドの反則を貰わないためにはパスの受け手が「私はプレーに関与する気はありませんよ」という意思表示をしなければなりません。完全にゴールに背を向けて歩いたり、スパイクシューズの靴ひもを結んだり、なんてのが代表的ですかね。ここまではサッカーを良くご覧になっている方ならご存知だと思います。
が、なんですよ。
僕もすっかり忘れていました。
オフサイドのルールって昨年度(2005年夏)に変更になったのです。
端的に言うと「オフサイドの反則は受け手がボールに触れてから」となったのですね。あくまでも推測ですが、【エリアの騎士】のトリックプレーとされるのはこのオフサイドルールを利用したものなんでしょう。駆はボールに触れてはいない。だから、オフサイドは無効=正式なゴールとなる。なので、漫画の展開としても正しいのですね。
とは、いかないのが僕の見解(笑)
結論から言うと「ものっすごいビミョー」ですね。
まず、オフサイドの新ルール(ってももうかなり時間たってるけど)をもう少し噛み砕いて考えてみましょう。
オフサイドの判定は受け手がボールに触れてから
=「受け手がボールに触れたか否かが判断基準」
参考資料:1プレーに干渉する
大雑把にまとめるとこういうことなので、これは一見すると判断基準が「触れたかどうか」というように以前より明確になったように見えるのですが、実はそうでもないのですね。それは、もう一つ大きな判断基準があるから。
その他の味方競技者がボールをプレーする可能性がないと主審が判断した場合、ボールにプレーする、あるいは触れる前に罰せられる。
参考資料:4プレーに干渉する
つまり「オフサイドポジションにいる選手がパスを受けようとしていて、明らかにそれ以外の味方がいなかったら、その場でオフサイドとってちょうだい」ということ。もっと簡単に言うと「明らかにその選手しかパスを受けないような状況なら、前と同じようにさっさと旛上げちゃいなさい」
そうするとオフサイドの基本判定としては、
審判は下記のような判断をするわけです。
================================
「DFラインの裏へパスキター!!」
「あ!あの9番いまオフサイドポジションだ!」
(9番はボールに向かって走ってる)
以前のルールならこの時点でオフサイド判定
「・・・・このままボールに触れたらオフサイドの反則だ。・・・・」
「・・・!ボールに触った!」
「ピピー!!」
================================
がしかし、二つ目の基準があるおかげで複雑難解になるわけです。
================================
「あ!あの9番いまオフサイドポジションだ!」
(9番はボールに向かって走ってる)
以前のルールならこの時点でオフサイド判定
「・・・・このままボールに触れたらオフサイドの反則だ。・・・・」
「いやまて!」
「周りに誰もいないか?!」
「他の味方選手がパスを受けたらオフサイドじゃない!」
「あ、いないじゃん!!」
「ピピー!!」
================================
これを一瞬にして行わなければならんのです。
ひどい話だ(笑)
とまあ、オフサイドはまた審判を苦しめる方向に向かっているわけですが、いまは【エリアの騎士】の話。主人公達が行ったプレーはオフサイドであるか否か。
・パスが出た瞬間は駆は完璧なオフサイドポジション
・駆はパスを受けるような動きを見せている
・駆はボールに触れていない
・誰もがオフサイドととれる位置にたった一人で走りこんだおかげで、ゴール前でドフリー=駆以外にパスを受ける選手はいない模様
・ボールは駆の足元でバウンド=明らかにシュート性の一瞬でゴールに吸い込まれるような球質ではない
「駆以外にパスを受ける選手はいない」のだから、オフサイドじゃないかと思うのですが、鍵は「シュートはどうするんだ」というところでしょうね。参考資料の図はサイドへのパスだから、明らかにシュートではない。「明らかにその選手しかパスを受けられない」というのは、ルールの意図としては「それ以外のプレーの選択肢がない」=「オフサイド確定」ということだと思うのですが、そうするとボールがゴール方向に向かっているときはどうするんだという話。
明らかにその選手しかパスを受けられなくても、ボールがゴールに向かっている以上、どんなゆっくりのゴロ球でもシュートになる可能性はある。そうすると「それ以外のプレーの選択肢がない」ということにはならない。=オフサイド確定が出来ない。困ったな〜(笑)でもこれだと、審判が困りますよね。だってもう一つ「ボールがゴール方向に向かっているかどうか」っていう判断もしなきゃいけなくなるんだから。大変だこれは(笑)
現実的に考えるならば、「ボールがゴール方向に向かっているかどうか」なんて判断は無理だと思いますね。「それがシュートかパスか」という感覚的な判断に任せるしかない。これは前ルールでも同じですね。中村俊輔がDFラインの裏にゆる〜いゴロパスを出して、オフサイドポジションにいた高原がそのパスに反応する。明らかに高原は追いつきそう。前ルールならパスが出た時点でオフサイドですね。ここで俊輔が「何言ってんだ!今のシュートだったんだぞ」と言っても通らない。ま、そらそうだけど。
そういう考え方から行くと、【エリアの騎士】のこの話の場合ロングパスがゴール前ドフリーで走りこむ駆の足元で1バウンドしている時点でパスを見なされてオフサイドを取るのが正当な判断かな〜と思います。
物凄い微妙なところですけどね(笑)
にしても、やっぱり僕は【エリアの騎士】って好きになれないですね〜。
こんな危ういルールを持ってきて、それでトリックプレー的(謎解き的)に使うのも、うまいというよりはコスイ手だなと思うし(まあまだわかりませんが)。サッカーの大原則で、サッカーをやっているものなら誰でも耳が痛くなるほど聞かされている「笛が鳴るまではプレーを止めるな」を完全に無視したストーリー(オフサイドと判断してGKが一歩も動かない)も、陳腐だなあと思う。なんか、サッカーの醍醐味や本質というのを明らかに間違えて捉えていて、その上浅はかなサッカーの知識をひけらかしているように見えます。僕には。同じ戦術オタク的な漫画でも、【ホイッスル!】は良作だと僕は思うのですが、違いはその辺にあると思いますね。